vol.25 米FF発祥の地、キャッツキルに浸る
2018年04月15日 16:00
今回のゲストは、ニューヨーク在住の内田さん( 以下、Uさん )です。
約5年前からフライフィッシングにはまっているということ。
そして、それはニューヨークからは東京と軽井沢くらいの距離にあるキャッツキルというアメリカの
フライフィッシング発祥の地との出会いから始まったということなどなど。
海外釣り旅とは少し趣が異なると思いますが、とても興味深いお話が聞けました。ぜひご覧ください!
インタビュアー 工藤( 以下、K ) 2017年11月
*ブラウントラウト キャッツキルにて
K:
今日は一時帰国という貴重な機会に、お時間をいただきありがとうございます。早速なのですが、キャッツキルは山の名前でしょうか。
Uさん:
こちらこそよろしくお願いします。
キャッツキルはエリアの名前ですね。キルっていうのは川とか谷という意味でもともとオランダ語が語源で。
フィッシュキルとかビーバーキルとか。その辺にかたまっていて、その山の総称をキャッツキルマウンテンと呼んでいるんですね。
たぶんそのエリアがアメリカのフライフィッシング発祥の地と言われていて。
最初の代のヨーロッパからの移民の人たちが貯水湖や水路をつくってマスを放流して、フライを楽しんだということらしいです。
*キャッツキルにて
K:
へぇ~ 由緒ある地なんですね。
Uさん:
はい。そこからアメリカのフライフィッシングが始まったという。
K:
そういうストーリーがあるんですね。わくわくする話ですよね。
Uさん:
で、僕らはそこが面白いねって言って。そこで一番古くから家族経営でやっているフライショップのオーナーを主人公にした
ドキュメンタリーを撮っているんですね。今のオーナーは30代くらいなのですが、その方のひいおばあちゃんとかおじいさんや
おばあさんがフライの本に出てくる有名なレジェンドみたいな存在で。
*キャッツキルにて(同じ森、夏と冬)
K:
いい話じゃないですか~
Uさん:
アメリカのフライフィッシングって、そんなに歴史は古くないのでキャッツキルに行くとレジェンドの子どもだったり、
孫だったりみたいな人が今もいるんですね。
K:
へぇ~ まだ2~3世代なんですね。
Uさん:
簡単に会えるし、一緒に釣りに行けたりするんですよ。
*キャッツキルにて
K:
リアリティが感じられるわけですね。伝説の中ではなくて、僕のおばあちゃんがこの谷でマスを釣っていてね、みたいな。へぇ~
Uさん:
そうですね。みんなで同じリビングルームでタイイングしたりとか。すごい魅力のあるカルチャーであり場所なんですね。
で、そこにドハマりしちゃいまして。
K:
そこって、もともとはトラウトはいなくて放流したわけですよね。
Uさん:
おそらく130年前とかにブラウントラウトなんかを放流したのだと思います。
外来種になるんですが。ネイティブな魚としてはブルックトラウトとかイワナ系の魚がいたようです。
*キャッツキルにて 写真:カメラマンのJonathan Mehringさん撮影
K:
僕も北米は好きなので一番行っているんですが、行きやすいのは西側なんですね。アラスカとか、カナダのバンクーバー周辺など。
メインのターゲットは各種太平洋サーモンとニジマス、イワナだとドリーバーデンとか。
ここ最近は、カナダ中央の北極圏近くでレイクトラウト、東側でブルックトラウトを釣るために足を延ばしたりもしていますが、
やはり遠いのでなかなか行けない。うらやましいです。
ニューヨーク周辺のネイティブのトラウトって言われると興味湧きますね。
Uさん:
日本同様に北米でも川に人工的に手を入れたために、ネイティブのブルックトラウトは生息数が減って弱ってきているようで、
それをもっと大切にして守っていきましょうと訴えるドキュメンタリーが放送されたりしてますね。
K:
そうなんですね。
ところで、キャッツキルはアメリカのフライフィッシング発祥の地ということはドライフライが中心になるのでしょうか。
*キャッツキルにて 上3枚の写真:カメラマンのJonathan Mehringさん撮影
Uさん:
そうですね。
キャッツキルではドライフライが有名で、キャッツキルドライって言われているようにみんながスタイルとしていますね。
それが今一番釣れるかどうかは別として。マニアックに( 笑 )。
K:
古典的なわけですね。フライの方も様々ですけど、一つのスタイルにこだわって釣ることに意味があって
それで釣れなかったら、それでいいんだという方っていますよね。なんでもありでいいじゃないという人もいますしね。
Uさん:
ミミズみたいのを使うとか。。。
K:
え~ それフライなのって( 笑 )。
でも釣りは、人それぞれの楽しみ方があるところがいいのでレギュレーションさえ守っていれば自由でいいかなって。
Uさん:
ははは~
僕はどちらかというとドライフライ派ですね。どうしようもなく釣れないときには、ストリーマーも使いますけど。
*キャッツキルにて 上2枚の写真:カメラマンのJonathan Mehringさん撮影
K:
なるほど。で、そもそも何でフライフィッシングにはまったのでしょうか。
Uさん:
友だちとそのエリアによくキャンプに行っていたんですね。州立のキャンプ場がいくつかあって。
だいたい川沿いにあって、明け方に朝もやの中でミドルエイジのフライフィッシャーの方々が釣りをやっていて。
見た目かっこいいなって。クラシックなスタイルで。
K:
それにしびれたわけですね。
Uさん:
はい。で、それをやってみたいと思って。
そこの一番小さな町、発祥の地と言われるロスコーっていう町へ行って。
トラウトタウンと呼ばれていて、訪れる人のほとんどがフライのために来るというような。
そこに昔からやっている3軒のフライショップがあって。そこで道具を揃えました。
K:
お~、フライフィッシャーが一人誕生!っていうことですね。
Uさん:
はい。。。 でも1年くらい、まったく釣れなくて( 笑 )。
K:
ははは~
そこが分かれ道ですよね。フライでもルアーでも、そこでやめちゃう人って多いと思うんですよね。
どんな気持ちで続けられたのでしょうか。よっぽど思い入れが強いか。それともキャンプのついでにのんびりやるんで
いずれ釣れればいいやって思っていたのか。
Uさん:
どうなんでしょうね。
友だちと二人で始めて。10回くらい行っても釣れなかったんですね。
キャスティングとかはYouTubeとかで見て、ある程度は思い通りに投げれるようになったんですけど。
どうやったら釣れるのかを誰からも教わらずにやっていたので。
でも丸1年くらいやっていたころに初めて釣れて。それではまりましたね。
K:
お友だちはどうだったでしょう? 気になりますが。
Uさん:
一緒に始めましたけど、半年くらいでやめちゃいました( 笑 )。
その後は、一人でも出かけることに。友人たちと一緒にキャンプに行ったときにもキャンプ中に一人で釣りに行くということも
あったのですが。その度に釣れないのでよく笑われていました。
ドライフライにこだわっていて、ライズを見つけると様々なフライを投げるのですが、ま~釣れなかったです。
K:
よくぞ、続けました! えらい! 初めて釣れたのはスキルが上がった結果なんでしょか。
また初めて釣れた魚はブルックトラウト?
Uさん:
そのときも、ずーっとライズがあって。いろんなフライを2時間くらいキャストするもまったく反応がなかったのですが。
だんだんと日が暮れて、ラインもキャスティングの雑さも魚からは見えなくなって、たまたま釣れたんだと思いますね。
で、魚はブラウントラウトでした。2匹。
K:
素晴らしい!!
Uさん:
初めて魚が釣れると、次は自分でタイイングしたくなって。自分で巻いたもので釣りたいっていう。
やっぱり人に聞くのが早いって、そのときわかって。で、いろいろ聞きまわっていたら、釣り仲間も増えていって。
たまたまクリエイティブ関連の仕事をしている、みんなアメリカ人なんですけど、
カメラマンとか広告のコピーライターとか。一緒に釣りに行くようになっていったんですね。
K:
いいですよね。最初の1年くらいは孤独にがんばっていたけど、初めて魚が釣れたことをきっかけに自然な流れで
釣り仲間が増えていくっていう感じが。
Uさん:
それと、工藤さんはご存知でしょうか。
日本人で大森さんという50代後半の釣りで有名な方なのですが。25歳くらいのころに、釣りのガイドになりたいということで
モンタナへ来られたんですね。今はコロラドにお住まいで、ガイドするためにモンタナとかイエローストーンとかに行くという。
友だちづてにそういう方がいるということを聞いて、会いに行きたいと思って。
たまたまある友だちのお父さんの知り合いだったんですけど。連絡を取っていただいて。
で、大森さんからはこちらに来られたたら釣りしましょうと言っていただいて、
その年の夏に2週間くらいコロラドで釣りをご一緒したんですね。
K:
それは貴重な経験ですよね。コロラドはよかったですか。
Uさん:
素晴らしかったですね。大森さんが操船するドリフトボートに乗って川下りをしながらの釣りで。
どんな魚がどこについているかとか、キャスティングもどういうところで魚が引っ張っていくかとか。その方に全部教わりました。
その方は、冬はベールという山でスキーのインストラクターもされていて。
もともとスキーのプロ選手だったそうで、夏は釣りのガイドをされているという。
K:
最高のライフスタイルですね。
そんなコロラドの体験もあって釣りの幅が広がっていったことと思いますが
普段は今もホームグラウンドは、キャッツキルっていう感じですか?
Uさん:
そうですね。北米大陸の西側のように魚影が濃くないのでなかなか難しいエリアなんですが、そこが面白いということもあって。
キャッチアンドリリースはキャッツキルで生まれたらしいのですが、
アメリカ人のあるジョークで、キャッツキルのブラウントラウトはフライパターンのすべてを覚えているっていう。
K:
お、今日はこのパターンで来たかって( 笑 )。魚からは、だいたいバレてるぞっていうことですよね。
Uさん:
はい。よっぽどプレゼンテーションがうまくいかないと釣れないっていうことで。
難しい場所だということを象徴するジョークなんだと思いますね。でも、そこで始めたのがよかったんじゃないかと。
K:
たまたまかもしれないけど、よかったかもしれませんね。
かなり修行のような1年間がありましたけど( 笑 )。
Uさん:
ははは~
コロラドとかでは、レインボーですがキャストすれば釣れるというようなこともありましたからね。ガイドさんも陽気で( 笑 )。
K:
なるほどね~ キャッツキル以外に釣りに出かけることはあるんですか?
Uさん:
そうですね。始めて2~3年のころに、大森さんとの出会いがあってコロラドに行って。
その次の年はスティールヘッドを釣りたいと思って、スペイキャストの釣りなんですが。
有名なサーモンリバーっていう川がありまして、鮭の遡上にあわせてスティールヘッドが上がってくるんですね。
そこに結構長くフライをやっている友だちたちと行って、一週間で1人が1匹だけ釣れたという、これも厳しい釣りでしたね。
僕も一度フッキングしたんですけどものすごい勢いで走られちゃって。岩でリーダーが切れちゃうくらい。
K:
へぇ~ 難しいんですね。サーモンリバーはニューヨークからは近い川なんでしょうか。
Uさん:
ニューヨークからは車で8時間くらいですね。ナイアガラのほうなんですが。
それと今年の夏は、モンタナのヘンリーズフォークへ行きました。やはり聖地と言われている有名なところにも行ってみたいと思って。
友だちとキャンピングカーで、国立公園を回りながらという旅で。イエローストーンやモンタナのギャラティンリバー、マジソンリバーなど
フライフィッシングと言えばここという有名な川を全部巡る釣りをしてきました。
K:
よく聞く川ばかりですよね、フライをやられる方々からは。
Uさん:
はい。で、すごく面白くて。鏡みたいな川の水面で膝くらいの深さなのですが暗黙のルールで50フィートとか、
20~30mの間隔をあけないといけないんですね。
そこで全員ドライフライの人たちが、ライズが来るまで川岸でみんな待っている。
定期的にライズがあるとなると、川に入っていってそのターゲットに向かってキャストするんですね。
K:
それが正しいお作法みたいな( 笑 )。
Uさん:
はい。しかも、一定の間隔で陣取っているので、自分の目の前でライズしないと入っていかない。それがすごく面白くて。
K:
へぇ~ なるほどね~ そういう光景が繰り広げられるわけですね。
Uさん:
そこによく来ている常連の人たちは椅子を持ってきていて、本とか読んでいるんですね。
この時間は待っているのみって感じで。ライズが始まると川に入って。
で、ライズがなくなるとまた川岸に上がるんですね。なんか神社でお参りしているみたいで。
K:
面白いな~
で、内田さんはそこそこ釣れたりとかしたのでしょうか。
Uさん:
小さい魚しか釣れなかったですね。小さい魚がすぐ掛かるので、みんな大きい魚がライズするスポットを見極めて
その流れでフライをどう流そうかっていうようにやっていたんですね。
K:
北米の中でも釣り場の環境やカルチャーも様々で行ってみないとわからないことってありますよね。
僕の話で恐縮なんですが、今年のゴールデンウイークにアラスカのヤクタットというところへ
スティールヘッドを釣りに行ったんですね( 本サイトのスペシャルのコーナーの記事参照 )。
平均が80cmというすごい川で素晴らしかったのですが、もっともスピードがあってジャンプを繰り返してエキサイティングだった
釣りは、60cmクラスの魚だったんですね。
大物に比べるとパワーは劣るのでファイトの時間は短いのですが、釣りの面白さは大きさだけではないなって。改めて実感しましたね。
60cmのトラウトなんて日本だったらビッグフィッシュなんで、とても贅沢なんですけど。
Uさん:
僕もあんまりサイズへのこだわりってないんですね。まわりは大物釣りたいっていう人多いですけど。
K:
特にアメリカ人は多いですね。例えばサーモンの釣りでは、シルバーサーモンは俊敏なファイトで面白いのですが
どちらかというとアメリカ人はキング、キングって言うんですよね。
ところで、内田さんの住んでいるニューヨークの人たちって若い人たちも釣りに親しまれているのでしょうか。
Uさん:
僕の友だちは東側のアメリカ人が多くて、ミシガンとかニューハンプシャーとか。メインとか。
そういう釣りによさそうなところで子どものころからやっていて。
ニューヨークとかはあんまりイメージとしてできないので、あんまりやっていない人が多くて。
大人になって車で移動できるようになってから釣りに行くようになるっていうパターンみたいですね。
若いうちから釣りに行くにはなかなか難しい場所なんでしょうね。
K:
日本人もアメリカ人もいっしょかもしれませんね。
魚影の濃いいい釣り場が身近にないと、釣りってなかなかやるようにならないんでしょうね。
だって簡単に釣れないと普通はやめちゃいますもん。
そういう意味では東京でもニューヨークでも始めた最初ほとんど釣れないのに諦めないで
釣りを続けるようになった私や内田さんのような人間は相当我慢強いというか、変態というか( 笑 )。
Uさん:
ははは~
僕は釣りを始めたいという人には紅葉や野草採りとかも楽しめるようなら、きっとできるよって言ってます( 笑 )。
K:
それと、フライとかルアーとか初心者に丁寧に教えてくれる環境ってなかなかないですしね。
Uさん:
オービスという有名な釣り具ブランドがあるのですが、ニューヨークの五番街にお店があるんですね。
で、そこのそばの州立図書館の裏なんですが、ブライアントパークという芝生の公園がありまして。
毎週土曜日に無料のフライのキャスティングレッスンがそのオービスのスタッフから受けられるっていうのがあります。
K:
いいですね~
Uさん:
で、フライをやってみたいっていう人にはまずそこでレッスンを受けてきてって、言うようにしてますね。
K:
自分はYouTubeで学んだけど( 笑 )。
Uさん:
ははは~
でも、やっぱり教わると1時間くらいである程度はできるようになるんですよね。
それと、カルチャーとして広まっている感じもいいなと。
後、トラウト・アンリミテッドという川とかトラウト釣りができる環境を守ろうっていう、ノンプロフィットの団体なんですけど。
それはすごく面白くて、自分がよく行っている川のゴミ拾いを1シーズンに1回はやりましょうとか。
そういうような呼びかけで釣り人の意識を高めるっていうので、結構僕らの仲間も加入してますね。
K:
それもいい活動ですよね。日本としても参考になるかもしれませんね。
Uさん:
加入すると、すごい有名人がタイイングしたフライがもらえるとか。
レジェンドみたいなもので、買えないけど、寄付とかボランティアに参加するともらえたりとか。
仕組みとして面白いなって思って。いろんな釣り具ブランドもそこに協賛して。
アメリカ中のどこの釣り場に行ってもそのトラウト・アンリミテッドがきれいにしているっていうイメージがありますね。
K:
いい話ですね。
日本は釣りの対象魚も釣り方のスタイルも多様なので、そういった統合的な釣り人の意識向上の活動がまとまりにくい
のかもしれませんが、学ぶところがきっとありそうですね。
今日は、ニューヨークという都会に住まれて仕事をされながらキャッツキルをホームフィールドとして釣りやアウトドアを
楽しまれているというライフスタイルにとても刺激を受けました。ありがとうございました!
完
< 編集後記 >
中々釣れなかった始めの約1年間を経て、やっと手にしたブラウントラウト。
それをきっかけに、すっかりフライフィッシングにはまってしまう。
すぐに結果がでなかったからこそ、最初の釣果の感激は計り知れないものになったことと思います。
内田さんの粘り強いというより、それまでのキャッツキルで過ごす時間を味わうように楽しんできた
穏やかな人柄と心のゆとりがそこへ辿り着かせたような気がしました。
そして、魚が釣れるようになってからも、あまりがつがつせずにホームのキャッツキルの釣りや
モンタナ、イエローストーンへの旅でもその自然の中で過ごすプロセスそのものを楽しむという
スタンスは変わらない。そんな釣りのスタイルに心を動かされました。
それでは、また次回をお楽しみに!
完